(79)さて難解に見えた第1章の冒頭の文章に戻ってみましょう。

さて、ギャツビーの葬儀が終わり、
ナレーター・ニックのニューヨークでの「ひと夏の物語」が終わりました。
ここから先は、第1章の冒頭部分の ニックのナレーションと だいたい同じ時間に 戻ります。
(原書:p.175 中ほどから 村上春樹版:p.315 "今でも鮮やかに脳裏に残っているのは・・・”

第1章の読み始めに 読みにくく、難解に映った文章も、最終章を読み終わってから
もう一度読み始めると、ぜんぜん、難しいことが書いてあったわけでは無いのが分かります。

村上春樹版では: 9ページ〜12ページ ”・・・醜い塵芥のせいなのだ。”まで)
(原書では: 1ページから 2ページの***マークまで)

(1)まず、最初の ニックのお父さんの言葉から ニックの性格 をこまごま書いた部分。
  
  前にも書いた通り、(ブログ:1月23日教室(8)第1章)
  おもには、
  リリー先生
  「この物語を語る ナレーターとして ニックが いかに ふさわしい性格をしているか、
  の説明をしています。
  
  それと、ニックは、ギャツビーを理解する誠実な人間ではありましたが、、
  実際のところ、ギャツビーとは違い、ニック自身はトムやデイジーと同じ金持ち階層
  の出身であることが 書かれていますね  」
  
  ”人間の基本的な良識や品位は、生まれながらにして公平に振り当てられるわけではない。
   そしてもしそのことを忘れたら、ひょっとしてひどく重要なものを見落としてしまうのではないかと、
   僕はいまだに心配になってしまう。” (村上春樹版:p.10後ろから5〜3行目)

  リリー先生
   「 金持ちのトムやデイジー、貧乏出身のギャツビー、マートル、ウィルソンが
    この小説で 起こした行動に 関係がありますね 」

   ―――続く――――

(77)The poor-son-of-a-bitch のギャツビーとフィッツジェラルド

The-son-of-a-bitch とくると、
すぐに侮蔑の意味合いがあるのかと、外国人には思えるのですが、
クラスで、フランス人生徒がちょうどそれを尋ねていました。

リリー先生
「The poor-son-of-a-bitchに 侮蔑の意味は、ありません。
  ええ、全然ありません」
ということでした。

原書:p.175 11行目
村上春樹版:p.315 3行目 

ギャツビーの葬儀で、参列した フクロウ眼鏡男 が、最後につぶやいた言葉。

" The poor-son-of-a-bitch. " 
「なんともはかないものだ」(村上訳)

poor というのは いろいろな訳が可能で、
「かわいそうな」「あわれな」「不幸な」
それに「亡き」「故人となった」もかのうで、
そもそも、「貧乏な」「貧民階級」と意味で、
どれも、ギャツビーを表していて ひとつの言葉に訳すのは難しそうです。

そして、作者フィッツジェラルドが1940年12月21日に亡くなったとき
フィッツジェラルドの葬儀で、参列した詩人ドロシー・パーカーは、
フクロウ眼鏡男が 亡きギャツビー に言った、
この "The poor-son-of-a-bitch."  の言葉 を、
亡きフィッツジェラルドに、泣きながら言っていた ということです。

(76) フクロウ眼鏡の男は フクロウ=Wise でした

リリー先生

「 ギャツビーの葬儀に参加した フクロウ眼鏡の男。
 フクロウ というのは、何を表しますか?
 そうですね、” wise ”。
 ”フクロウ眼鏡の男” は、この小説において 賢者、物知り でありました」

                                                                                                                        • -

村上春樹版: p.314-p.315
原書: p.174-p.175

(78)ブッシュ元大統領とローラ夫人は トムとデイジーみたいだと言われてました

リリー先生

「原書:p.179
They were careless people, Tom and Daisy----
they smashed up things and creatures and the retreated back into
their money or their vast carelessness, or whatever it was
that kept them together,and let other people clean up the mess
they had made......
ケアレスな人々、トムとデイジー、そして多くのお金持ちたち。
 彼らは好き放題 人でも何でも めちゃくちゃにしておいて、
 都合が悪くなったら 引っ込んで 後始末は ぜんぶ他の人がやるわけです。

 ブッシュ大統領は、この8年間 自分の属する階級が都合のいいこと 好き放題し、
 メチャクチャにするだけして、去ってしまいました! 
 
 それに、たとえば、ブッシュ大統領ファーストレディーだったローラ夫人、
 彼女は、17歳のとき、自動車で人を殺しています。
 一時停止のサインを無視して運転して、別の車とぶつかったのです。
 別の車に乗っていた人が亡くなりました。
 その亡くなった男性は、ローラ夫人の元ボーイフレンドでした。
 ローラ夫人は、未青年であったため、刑事罰無しで済みました。
 
 この8年間、ブッシュとローラは、トムとデイジーにたとえられていました。 」

                                                                                                • -

 村上春樹版:p.322  8行目から
 

(75)ギャツビーとフクロウ眼鏡男の謎

      • 前回から続く-----

ニックのほかに、もうひとり ギャツビーに真実があると気づいていたのは
フクロウ眼鏡男だけでした。
だから、ギャツビーのお葬式は、肉親のギャツビーの父親以外では、
ギャツビーの真実を知る ニックと、
ギャツビーに何かしら真実を認めていた フクロウ眼鏡男だけが 参列したのでした。

わたしが勝手に想像するのは、
もしかして、作者のフィッツジェラルドが、「グレート・ギャツビー」の原稿の
第1稿を書きあげたとき、第1稿には、「フクロウ眼鏡男」は、居なかったのではないかと
勝手に思っています。
第1稿を書きあげたフィッツジェラルドは、自分で書いたにもかかわらず、
結末の ギャツビーが あまりにも 可哀そうすぎて、
それで、ギャツビーの心を知る人物を ニック以外に もう一人増やしてあげることに
したのじゃないかと 思います。
何かしらギャツビーに心や真実があるということを知る登場人物として、
「フクロウ眼鏡男」を 新たに創り 第2稿目から登場させたのではないでしょうか。
「フクロウ眼鏡男」は、フィッツジェラルドが創り出した あまりにも可哀そうな 
しかも自分に似たキャラクター、ギャツビーへの、
作者フィッツジェラルドからの プレゼント なのではないでしょうか.


それと、原書:p.46 最初のあたり
    村上春樹版:p.89 2〜4行目

本棚から本を一冊取り出したフクロウ眼鏡男が、あわてて本を書棚に戻すときに、
こうつぶやきます。
「一冊でも取り外すと、ブロックが一個外れて建物が崩壊するみたいに
 図書室が崩壊しかねないからな」

何か、結末の 崩壊したギャツビーを 予感させる一言です。

(74) ギャツビーとフクロウ眼鏡男の謎

      • 前回から続く-----

もともと、フクロウ眼鏡男は、ギャツビー邸の図書室にある蔵書は、全部、「張りぼて」だと思っていました。
本物の本に見せかけて「厚紙で作った張りぼてで、中身のページなど無く 図書室を飾ってある」だけだと思っていました。
それは、フクロウ眼鏡男が ギャツビーを 「張りぼての男」だと思っていたからでしょう。
皆が知っているのは、豪勢なパーティーを催す 豪邸に住む 大金持ちの ギャツビーで、
何で金持ちなのか、何者なのか、だれも知らない、得体の知れない ギャツビー。
フクロウ眼鏡男は、ギャツビーの家の本なんか、張りぼてだと 思いこんで
手にとってみたら、 実は、本物の本だったので 驚いたのです。
昔の本は、印刷製本の都合で ページが全部つながっていて、
ナイフでページを切り離さないと読めませんでした。
ギャツビーの本は、ページが切り離されていなかったので、ギャツビーが本など一度も読んでいないのは
一目瞭然でしたが、外側だけの見かけだけの本ではなく、
本物の中身の印刷されたページのある正真正銘の本だったのです。
フクロウ眼鏡男は驚きました。 ”They're real." p.45
フクロウ眼鏡男は、本と同じく、中身のない見かけだけの男だと思っていたギャツビーに、
中身が ある He is real. と、このときに 知ったのです。

ニックのほかに、もうひとり ギャツビーに真実があると気づいていたのは
フクロウ眼鏡男だけでした。

      • つづく---

(73)最終章 ギャツビーとフクロウ眼鏡男の謎 

ニックが、最後にギャツビーに向って、
「誰も彼も、かすみたいなやつらだ、みんな合わせても、君一人の値打もないね」
と言ったように、
ニックは、ギャツビーが、大金持ちという外から見えているだけの人間ではなくて、
なにか 心に真実のある人間であったことを、知っていました。
だから、ニックは、他人なのに ギャツビーのお葬式の世話までしてあげました。
ギャツビーが 真実を持っている人間だと
知っていたのはニックの他に、
実は、もう一人いました。

ギャツビーのお葬式に、一人だけ、駈けつけてきた男です。
それは「フクロウ眼鏡の男」。

この フクロウ眼鏡の男 は、以前 ギャツビーのパーティーに来ていた客の一人です。
覚えているでしょうか。
ギャツビー邸の 「図書室」 で 一人で いい調子に酔っ払って ニックとミス・ベイカーに
いろいろ話しかけていた男です。

                                                                          • -

原書: p.45
村上春樹版: p.87~89

        • つづく-------